!!制御理論の選定 代表的な設計手法の特徴を以下に述べる.ただし比較的小型のUAVに適用することを想定している. !PID制御 *モデルを用いない直感的なチューニングが可能である. *多入力多出力系への適用が困難である. *コントローラの構造が限定されるため,達成可能なロバスト安定性や性能の上限が低い. ---- // !固有構造配置法 // 状態方程式 {{ref_image SE1.png}} に出力フィードバック {{ref_image OFB.png}} を用い,閉ループA行列 {{ref_image Acl.png}} の固有値,固有ベクトルを望ましい値にする手法である. Aのサイズをn×n,rank(C)=rとする.このとき,n個の閉ループ固有値の中のr個は厳密に配置できる.その閉ループ固有値をλiとする.またそれに対応したr個の固有ベクトルは, {{ref_image Ni.png}} の列ベクトルで張られる部分空間上に配置できる. (Andry, A.N., Jr, Shapiro, E.Y. and Chung, J.C., Eigenstructure Assignment for Linear Systems,IEEE Trans., AES-19(1983), pp.711-729.) //   この手法は以下の特徴を持つ. *実機についての飛行性基準のいくつかは固有値の位置で定義できるため,この手法を適用して満足させることが可能である. *さまざまな性能を達成する閉ループ固有構造を決定することが困難である. *必要なロバスト安定性を明示的に確保することが困難である. ---- // !最適レギュレータとカルマンフィルタ // 【最適レギュレータ】 状態方程式 {{ref_image SE2.png}} に対して,評価関数 {{ref_image J.png}} を最小化する状態フィードバック {{ref_image SFB.png}} を用いる. //   最適レギュレータは状態フィードバックであるため,オブザーバを利用して状態量を推定する必要がある.そこでカルマンフィルタを用いて状態推定を行う.    【カルマンフィルタ】 正規白色雑音のシステム雑音v,観測雑音wが存在するシステムを考える. {{ref_image SE3.png}} さらに同一次元オブザーバ {{ref_image OBS.png}} を考える.ここで {{ref_image xh.png}} は状態ベクトル {{ref_image x.png}} の推定値である.推定誤差を {{ref_image e.png}} としたとき,2乗平均誤差 {{ref_image Je.png}} を最小化するオブザーバゲインFを定める.   この手法の特徴は以下の通りである. *評価関数の重みQとRを用いて直感的に時間応答を整形できる. *最適レギュレータは±60[deg]の位相余裕と無限大のゲイン余裕を持つ. (Michael G. Safonov and Michael Athans, Gain and Phase Margin for Mutiloop LQG Regulators, IEEE Transactions on Automatic Control, Vol. AX-22, No. 2 (1977), pp.173-179) *確保される位相余裕,ゲイン余裕は多入出力系の対角要素に加わった摂動に対してのみ保障される. *ゲイン変動と位相変動が同時に加わる場合のロバスト安定性は保証されない. *オブザーバと併合した場合のロバスト安定性は完全には保存されない. *UAVの場合,システムに加わる外乱は正規白色雑音ではない. ---- // !H∞制御 制御対象のモデル化誤差や変動,性能指標を取り出したものなどをまとめてΔとする. {{ref_image LLFT.png}} '''ロバスト制御問題'''   さらにwからzまでの伝達関数をTzwとする.   【H∞制御問題】 ノミナルプラントについての閉ループ系Tzwを内部安定にし, {{ref_image Tzw.png}} を満たすコントローラKを求めよ.   求まったコントローラを用いると {{ref_image Delta.png}} の不確かさに対して安定性が保証される.   この手法の特徴は以下の通りである.   *前出の手法と比べて,明示的に必要なロバスト安定性を保証できる. *適切な信号を性能指標として引き出しΔ;に加えることで,ロバスト安定性と性能のトレードオフを達成できる. *μ設計法と比べてコントローラの次数は低い. *μ設計法と比べて保守性が強い. ---- // !μ設計法 // H∞制御問題と違いΔを構造化された不確かさとして扱う. Tzwを内部安定にし, {{ref_image Tzw2.png}} を求める問題である.このとき {{ref_image SIGMA.png}} に対して安定性が保証される.構造化特異値に対する十分条件に直してコントローラを求める解法が提案されている. この手法の特徴は以下の通りである. *H∞コントローラと比べて,より精密にロバスト安定性や性能を達成できる. *一般に非常に高次のコントローラが得られる. *問題設定が煩雑であり,H∞コントローラと比べて手間がかかる. // !!まとめ 各設計手法には長所と短所があり,さまざまなことを考慮して選択する必要がある.比較的小型のUAVに対して以下の指針が言える. *開発の初期段階では,モデル化を必要としないPID制御を安定化コントローラに用いて飛行試験を行い,機体形状の性能評価を行う. *MPUの性能が高く高次のコントローラを実装できる場合や精密にロバスト安定性と性能を確保したい場合は,安定化コントローラにμ設計法を用いる. *MPUの性能が低い場合は,H∞制御もしくは低次元化を施したμ制御器を用いる. *不確かさがあまり構造化されていない場合や設計の手間をあまりかけたくない場合はH∞制御器を用いる. *センサなどの正規白色雑音を仮定できる対象に対してカルマンフィルタを適用し,真値を推定する.そして推定された出力を安定化コントローラに引き渡す.安定化コントローラの設計においてカルマンフィルタのダイナミクスは考慮しない. *誘導コントローラに対してはPIDコントローラを適用する. ---- [[UAVの作り方へ戻る|HowtoMakeUAV]]