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DISTB

 外乱応答


開発した機体がミッションを達成可能か評価するため,外乱応答の数値シミュレーションを行う.実機においては大気の擾乱の中を飛行したときに機体に加わる荷重や操縦性を評価する必要がある.しかし小型無人機は比較的頑丈に作られているため荷重評価の重要性は低い.またパイロットが評価する操縦性も関係ない.ここでは風外乱に対する機体応答が所望の範囲におさまっているか,ウェイポイントを所望の精度で通過できるかなどを評価する.

x,y,z軸に沿ったそれぞれ独立した擾乱を考える.確定的な擾乱モデルとして孤立突風モデル,確率的なモデルとしてフォンカルマンのモデルやドライデンのモデルが提案されている.

孤立突風モデルについて

機体がx軸方向に速度U0で飛行しているとする.このとき突風の各軸に沿った成分は,

でモデル化される(m=x,y,z).dmは突風の長さで,機体の固有モードと突風の周波数を一致させるように選ぶ.vmは突風の大きさである.時間tについてのモデルにするには x=t×U0とする.

確率的な乱気流モデルについて

フォンカルマンのモデル,ドライデンのモデルともそのパワースペクトル密度で定義されている.ここでは取り扱いの易しいドライデンのモデルを紹介する.ug,vg,wgをそれぞれxyz方向の突風成分,さらにそれらのパワースペクトル密度をΦug,Φvg,Φwgとすると,波数(wave number)Ωの関数として,

で与えられる.ただし時間関数f(t)のフーリエ変換は

で定義する.
機体が遭遇する突風の周波数ωについてのパワースペクトル密度φug(ω),φvg(ω),φwg(ω)は,

となる.U0は機体のx軸方向速度である.
このパワースペクトル密度を持つ突風に対する時間応答のシミュレーションを行うには,突風の時間履歴を決める必要がある.そこでフィルタと白色ノイズを利用する(図1).フィルタの伝達関数表現をH(s),フィルタに対する入力をn,出力をyとする.さらにnのスペクトル密度をSn,yのスペクトル密度をSyとする.このとき

が成り立つ.入力としてスペクトル密度が1で一定の白色雑音を採用する.そして

を満たすフィルタHを採用し,白色雑音に対する時間応答を計算するとドライデンのモデルと一致するスペクトル密度を持つ擾乱が計算できる.
振幅二乗特性がドライデンのモデルとなるフィルタは,

であるので,

となる.

これらの孤立突風や乱気流モデルに対する機体応答を計算し,迎角が失速迎角より大きくならないことを確認する.また横・方向の応答もあまり大きくならないことを確認する.制御対象が内部安定化されている限り,有界な外乱に対する応答も有界となる.したがってシミュレーション上は外乱により不安定化されることはないが,大きな変動が起きると線形化近似が成り立たなくなる恐れがある.数値シミュレーションにおいて大きな変動が起こると,実際の飛行で持続的な振動が生じたり,運動が不安定化されたりする場合がある.

また搭載カメラで撮影するミッションの場合は,機体の角速度変動が問題となる.

孤立突風モデルやドライデンのモデルにおける風のスケールと強さは,飛行高度や許容される遭遇確率によって決定する( “飛行機の飛行性”, 日本規格協会, JIS W 0402, pp.37-43.).

図1 成形フィルタと白色ノイズ
 


 

風外乱の平均値

ウェイポイントを通過するミッションにおいては風外乱の変動成分より平均値成分が重要である.小型無人機は地表付近を飛行するが,地表付近の平均風速は地域や季節に依存するため統一的なモデルはない.そこで気象庁の平均風速データを利用する.例として表1に東京,大阪の月ごとの平均風速を示す.これらの値の一定の風を考慮したシミュレーションでミッションが達成可能であることを確認する.実際の風が平均値周りに対称に散らばった一定の風とすると,少なくとも50%以上の確率でミッションを達成できることが保障される.よりミッションの達成確率を高めるには,平均値より大きな風の中でシミュレーションを行い飛行制御系の評価を行う.

表1 2006年の月ごとの平均風速(m/s)
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
東京 3.8 3.7 3.8 3.6 3.8 2.7 2.7 2.7 3.8 3.7 3.3 3.4
大阪 2.3 2.8 2.8 2.6 2.6 2.2 2.3 2.7 2.3 2.1 2.3 2.2
(気象庁ホームページ,気象統計情報より引用)


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