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MODE

 運動のモード解析

【状態方程式】

の一般解を求める.正方行列

の固有値,右固有ベクトル,左固有ベクトルをそれぞれ

また,

とする.このとき

が成り立つ.一般に必要な状態変数のみで航空機の運動を記述した場合,その状態方程式のA行列は重複する固有値を持たない.ここで,初期値x0に対する状態方程式の一般解は,

である.さらに,A行列を対角化することで変形すると,
 


【一般解】


 
となる.特にu(t)=0のときは,
 


【初期値応答】


 
となり,初期値応答が各モードの重ねあわせで表現されることがわかる.行列Aは実数行列であるため,その固有値,固有ベクトルは実数もしくは共役な複素数のペアで現れる.jとj+1番目の固有値,固有ベクトルが共役な複素数として,

とおく.これらを【初期値応答】に代入しj番目のモードを取り出すと,

となる.

の比は固有ベクトルの各要素の絶対値の比に一致し,

は固有ベクトルの各要素の偏角の差に一致する.従ってA行列の固有値,固有ベクトルを調べることで,初期値応答の性質を詳しく理解できる.

■数値例
CONVAIR 880MがU0 =68.9 [m/s],W0=6.26 [m/s], θ0=5.2 [deg]水平直線飛行しているときの状態変数とA行列は,

である.これらのA行列の固有構造を計算する.

【縦運動の固有値,固有ベクトル】


【横・方向運動の固有値,固有ベクトル】


 縦運動

 数値例の縦運動の固有値-0.64±0.47iのモードは-0.014±0.13iのモードと比べて振動が速く減衰も大きい.これを短周期モードと呼ぶ.一方-0.014±0.13iのモードを長周期モード,もしくはフゴイドモードと呼ぶ.この数値例に限らず,一般に航空機の縦運動には減衰が強く振動数も速い短周期モードと,比較的減衰が弱く振動数も遅い長周期モードが存在する.

すでに述べたように,固有ベクトルの各要素の絶対値を比較することで,それぞれのモードで卓越した状態量を調べることができる.数値例において短周期モードの固有ベクトルuに対応した要素-0.99とαに対応した要素(0.068-0.10i)の絶対値にU0をかけて比較すると,uの振動があまり起こっていないことがわかる.また長周期モードでは短周期モードに比べてqの振動が小さい.これらのモードの特徴を利用して次数の低い運動の近似式を導くことができる.式を簡単にするため,釣合状態でθ0=0となるように座標を定める.これを安定軸と呼ぶ.さらに値の小さな微係数を

として省略する.【縦の状態方程式】において,u=0としαとqの式を取り出し,エレベータ入力のみを考える.
 


【短周期近似】

短周期モード近似式の特性方程式は,

である.従って

である.


 
【縦の線形化運動方程式】において,u=0としてモーメント式を省略する.

さらに

を代入して状態方程式の形に直す.
 


【長周期近似】

特性方程式は,

である.



 横・方向運動 

数値例の固有値-1.5のモードはロールモードと呼ばれ減衰が強くロール運動が卓越する.固有値-0.12±1.0iのモードはダッチロールモードと呼ばれローリングとヨーイングが練成した比較的減衰の弱い振動モードである.また

が成り立つ.固有値-0.0091のモードはスパイラルモードと呼ばれ,時定数の小さな発散もしくは収束するモードである.このように航空機の横方向運動には,減衰の強いロールモード,振動するダッチロールモード,穏やかに減衰もしくは発散するスパイラルモードが存在する.


横・方向運動には縦運動ほど精度が良く使いやすい近似式は無い.以下に簡単な近似式を与える.

ヨーイングの式において

とすると,
 


【ダッチロール近似】

特性方程式は

である.


 
次にローリングの式でp以外の項をすべて0とおくと
 


【ロール近似】



を得る.

 
 これら近似式の利点は,伝達関数の零点,極と安定微係数の関係が明らかになることである.従って飛行条件や微係数の不確かさの運動特性への影響や,機体形状と運動特性の関係を評価することができる.


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